最高裁判所第二小法廷 昭和32年(あ)68号 判決 1959年7月24日
主文
本件各上告を棄却する。
理由
被告人甲斐宝市本人の上告趣意は、訴訟法違反と事実誤認の主張をいでず、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
被告人両名の弁護人諌山博の上告趣意第一点について。
しかし憲法二一条一項の保障する言論その他一切の表現の自由といえども絶対無制限のものではなく、公共の福祉に反する限度においては制約を受けるものであることは、当裁判所大法廷の判例とするところであり、(昭和二四年五月一八日判決、集三巻六号八三九頁、同三二年三月一三日判決、集一一巻三号九九七頁各参照)、且つ、脅迫罪において害悪の告知が明白にして現在せる危険を内包するものであることは同罪の成立に必要な要件ではなく、原審の確定せる事実関係の下において被告人らの判示所為が脅迫罪を構成することは明白であるから、原判決には所論の如く憲法二一条一項及び刑法二二二条一項の解釈適用を誤った違法はない。論旨は理由がない。
同第二点について。
所論は単なる法令違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(原審の確定せる事実関係によれば、判示佐賀税務署構内は同税務署に用事のない者がみだりに立入ることを許さない場所であるから、たとえ同税務署裏手に酒販組合事務所があって、人々が同構内を自由に通行していたとしてもやはり同税務署の庁舎管理者の看守内にあること明白であり、これを通路に準ずるものとなす所論は失当であるのみならず、原判示の如く被告人らが夜間同庁舎内に人糞を投込む目的をもって同構内に立入った以上その所為は一般に予期される正常な用務を帯びるものでなく庁舎管理者の承諾の限度を越えて故なく人の看守する建造物に侵入したものとして刑法一三〇条の罪を構成するこというまでもない。)
同第三点及び第四点について。
所論は、訴訟法違反及び事実誤認の主張をいでず、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
検察官の上告趣意について。
原判決が一般的に爆発物取締罰則にいわゆる爆発物の意義を説示した部分は、論旨引用の大法廷判決と趣旨において異なるところはないから、この点において判例違反はない。
論旨は、原審が証拠により認定した本件ラムネ弾を右罰則にいわゆる爆発物に当らないと判断した点は、法令の適用を誤り且つ右罰則にいわゆる爆発物の意義を判示した右大法廷判例に違反するというが、右判例の事件の事実認定において判示された火焔瓶と原判決において認定された本件ラムネ弾とは、互いに構造、装置、薬品資材の性質、分量、使用法、性能、殊に破壊力その他において相違するものであること明白であるから、所論の点については右判例は事案を異にし本件に適切でない。
論旨は更に、前記の点についての原判決の判断は引用にかかる高等裁判所の判例と相反するというが、原審が証拠により認定した本件ラムネ弾は、引用の諸判例の事件の事実認定において判示されたいわゆるラムネ弾と、構造、装置、性能、威力等の諸点において具体的に相違するものであること明白であるから、所論の点については、右諸判例はこれまた事案を異にし本件に適切を欠くものといわなければならない。
しかして、原審が証拠により確定した本件ラムネ弾は、原判示の如く、その一部の投下地点から僅か一米以内の近距離にあった警察隊長官舎座敷東側のガラス窓のガラス一枚さえも破壊していない程であるから、性能は可成り弱く、その投擲による爆発作用そのものによって人心に不安脅威の念を生じよって公共の安全を撹乱し人の身体財産を傷害損壊するに足る破壊力を有するものとは認め難く、前記罰則にいう爆発物に当らないものと認めざるを得ず、この点についての原判決の判断は正当であり、同罰則の解釈適用を誤った違法はない。
論旨は理由がない。
また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)